アパート・マンションの給排水設備点検、1年の計画
アパート・マンションの給排水設備は、止まった瞬間に入居者の生活が破綻し、漏水は階下被害や営業損失にも直結します。だからこそ点検は「不具合を探す作業」ではなく、故障を起こさないための年間運用です。ここでは1年の計画の立て方を整理します。

1.【年間計画の骨格】3つの軸で回す
①法令・保険対応(受水槽・ポンプ・逆流防止、管理規約、火災保険の事故報告フロー)
②衛生・詰まり予防(排水管清掃、通気、臭気、害虫発生の抑制)
③更新判断(耐用年数・劣化度・事故履歴の見える化)
この3軸を「月次の小点検+季節点検+年次点検」で重ねると抜けが減ります。加えて、点検結果は良否だけで終わらせず、次の手当(清掃・補修・更新)まで紐づけることが重要です。
2.【月次】管理会社・オーナーが見る5分点検
共用部は毎月、目視と聞き取りで十分効果が出ます。メーターボックス周りの濡れ、ポンプ室の異音・振動、圧力計の変動、排水マスの溢れ跡、臭気クレームの有無を記録します。漏れは「濡れが続く」「乾き方が不自然」がサインです。入居者には水道使用量の急増、床鳴り・カビ、排水の遅れを申告してもらいます。併せて、掲示板やアプリで「異変は写真付きで連絡」「夜間は緊急窓口へ」と連絡導線を固定します。
3.【季節点検】冬・梅雨・台風前後を押さえる
冬(12〜2月)は凍結対策が主役です。外壁面の水栓、給湯器周り、共用廊下の露出配管は保温材の欠損がないか確認し、注意喚起文で「鉛筆芯程度の通水」「長期不在時の水抜き」「ブレーカーを落とさない」を徹底します。凍結しやすい系統は、過去の事故室番を地図化して重点巡回します。
梅雨〜夏(6〜8月)は排水系の臭気・害虫が増えます。トラップの封水切れ、通気不足、汚れの付着を点検し、共用排水マスの堆積物を除去します。キッチン系統は油脂が固まりやすいため、入居者へ「油を流さない」という認識の啓発もセットで行います。台風・豪雨の前後は、雨水桝や排水ポンプ(ある場合)の作動確認、逆流防止のフラップ確認を行い、越水の履歴を残します。浸水が想定される立地では、止水板や土のうの配置場所も平時に決めておきます。
4.【年次】専門業者点検で「数字」を残す
年1回は専門業者で、給水圧・流量、ポンプの電流値、受水槽の清掃・内部劣化、減圧弁・安全弁の動作、排水管内視鏡(必要箇所)を実施します。排水管清掃は建物規模や油脂負荷で周期を決め、飲食や多人数が多い物件は短めが安全です。結果は写真と測定値で残し、前年と比較できる形にします。報告書は「指摘→原因→推奨対応→概算費用→優先度」の並びに統一すると、次年度予算が通りやすくなります。
5.【更新計画】事故前更新の優先順位
更新は「年数」だけでなく、①漏水履歴、②材質(鉄管・亜鉛メッキの赤錆など)、③配管ルートのリスク(天井内・パイプスペース内・露出)、④保温・支持金具の劣化、⑤入居率と工事調整難易度で優先順位を付けます。小さな漏れを繰り返す系統は、部分補修より系統更新の方がトータルコストが下がることも多いです。更新時期が近い設備は、断水計画・住戸内立入の手順書を早めに整備し、掲示文のテンプレも作っておきます。
6.啓発は「入居時+定期フォロー」が理想
排水トラブルを減らすには、一度伝えれば終わりではなく、継続的な啓発が重要です。
・入居時オリエンテーションで口頭説明+紙のしおり配布
・退去トラブル事例を踏まえた「よくある質問」チラシの配布
・大掃除シーズンや排水管清掃の前に、メール・LINEなどでワンポイント配信
このように、節目ごとに思い出してもらえる仕組みをつくることで、入居者の行動は少しずつ変わっていきます。トイレとキッチンの正しい使い方を伝えることは、「設備を守るため」だけでなく、入居者にとっても安心・快適に暮らせる住まいを守ることにつながります。排水トラブルをきっかけに不信感を生まないためにも、予防型のコミュニケーションを積極的に取り入れていきたいものです。

